インボイス方式と免税事業者の危機
平成31年10月1日より、消費税率が現行の8%から10%へ引き上げられます。もっとも、この引き上げは、平成27年10月から行われることが決定していました。しかし、景気の動向が良くないということを理由に延期されているのです。
10%への税率の引き上げ時に、軽減税率の導入も行われます。つまり、飲食料品と宅配新聞に関しては8%の税率が適用され、10%より「軽い税率」が適用されます。
ところで、納める消費税額は端的には、預かった消費税額から支払った消費税額を控除した金額です。ただ、支払った消費税額を控除するには、その取引に係る請求書等を保存することが現行では要件となっています。これを請求書等保存方式といいます。
この方式は、現在のような単一税率(8%のみ)の元では大きな問題はないのですが、複数税率(標準税率10%と軽減税率8%)が導入されますと、10%対象取引と8%対象取引の区分が煩雑となり、支払った消費税額を適正に控除することが難しくなる可能性があります。そこで登場するのが「インボイス方式」です。
このインボイス方式は平成35年10月1日より開始されます。インボイス方式では消費税を預かる事業者がインボイスを発行されますが、このインボイスには、取引に対する適用税率及び消費税額が記載されます。つまり、控除する消費税額が明示されるのです。消費税を支払った事業者は、このインボイスを基に支払った消費税額の控除を行います。インボイスがないと支払った消費税額を控除することはできません。
しかし、問題は、このインボイスは納税地の所轄税務署長に申請をおこない、登録を受けた事業者のみしか発行できないということです。この登録は、課税事業者(消費税の納付義務のある事業者)しか行うことができず、免税事業者は登録できないのです。
ということは、免税事業者へ支払った消費税(免税事業者への支払いに対しては消費税という概念はありませんが、現行では免税事業者に対する取引でも消費税額を控除していいという意味で)は、インボイスが発行されないため控除できないこととなります。消費税を支払う側からすれば、支払った消費税を控除できる課税事業者への取引を選択する可能性が大きくなり、免税事業者が取引から締め出されることが懸念されます。
(インボイス方式が採用される間の平成31年10月1日から平成35年9月30日においては、「区分記載請求書等保存方式」というものが行われます。)
(税理士法人ティグレパートナーズ東京 中村哲平)
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