副業と残業代、労災保険の関係
本記事は、執筆時の情報を元に掲載しております。最新情報とは一部異なる可能性もございますので、ご注意ください。
平成30年1月に厚生労働省から「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が発表されました。それによると、就業者全体に占める副業希望者の割合は増加傾向にあるが、多くの企業で副業・兼業を認めていません。認めていない理由は、①自社の業務がおろそかになる②情報漏洩のリスクがある③副業・兼業に係る就業時間や健康管理の取扱いルールがわかりにくいことなどがあげられています。
ここでは、労働者が複数の会社に勤める場合の労働法の適用はどうなるのか、特に残業代と事業場間の移動の間に起った災害について確認します。
●残業代について
副業の場合の労働時間については、労働基準法第38条で「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と規定されており、「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合をも含むとされています。つまり、副業の時間分も含めた労働時間について法律の規制を受けることになります。
それでは、副業時間を含めて法定労働時間を超えた場合、残業代(割増賃金)を負担するのはどちらの会社でしょうか。ガイドラインでは、例を交え「後から契約した方の会社」が割増賃金を支払うべきとしています。実際には労働者が副業を申告するとは限らないなどの問題があるため、取扱方法が確立されていないのが現状です。
●通勤災害の取扱い
労災保険が適用される「通勤」とは就業に関し移動することを指し、事業場間の移動の間に起った災害の保険関係の処理は終点である事業場の保険で行われるものとされています。つまり、通勤災害の給付額は終点である事業場の賃金分のみに基づき計算されるため、全ての就業先の賃金合算分を補償することはできません。 通勤災害で働けないのは正業・副業両方なのに、休業補償は一方の会社の賃金をもとに計算されるというのは不合理であるため、時代にあわせた法改正が望まれます。
最後に副業・兼業は長時間労働になりがちですが、その歯止めは誰がするかという重大な問題もあります。ガイドラインは各企業の長時間労働による健康障害防止についての措置が必要として労使の話し合いが適当としているが、労働者には「自らの始業・終業時刻、勤務時間、健康診断等の記録を付けるなどして、就業時間や健康管理に努めましょう。」と自己責任を強調しています。これで長時間労働と健康障害防止につながるか、ガイドラインは明確な根拠を示せていないと言わざるをえません。こちらも今後のガイドライン整備を期待したいところです。
(社会保険労務士法人ティグレ 代表社員 新里順一)
関連するティグレのサービス:人事制度・労務管理の相談 労務管理を軽減したい