本記事は、執筆時の情報を元に掲載しております。最新情報とは一部異なる可能性もございますので、ご注意ください。
今回は、飲食店や小売業などいわゆる「現金商売」と言われる業種における税務調査のポイントについて説明していきます。
現金商売の最大の特徴は、「お金」が動いた証拠が残りにくいことです。そのため税務調査の際には「売上が正しく計上されているか?」が一番大きなポイントとなります。
そして次に「もの」の確認です。決算日において在庫がどれだけあったかは、最終的な利益に大きな影響を及ぼしますので、こちらも重要なポイントになります。
【重要ポイント】
● 現金の売上は正しく計上されているか?
● 在庫、仕入は正しく計上されているか?
<目次>
1. 現金商売の税務調査の特徴
現金商売における税務調査は、他の業種と異なり現場を中心に行われます。
①まず事前の情報収集が行われ、②ある日いきなり調査にやってきて、③ヒアリングとともにその場で現金などの現物の確認が行われます。
こうして書くと何か疑われているようで不快に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、その日の現金をその場で確認しなければ、何が正しいか分からなくなってしまうため、この手順が現金商売の一般的な調査手順となります。調査で確認を受けるポイントは決まっていますので、この記事を読んだ皆さんはいつ税務調査が行われてもいいよう常に準備をして冷静に対応していきましょう。
2. 税務調査の流れ
それでは実際の税務調査の手順を順番に追っていきましょう。
① 事前の情報収集
事前調査には、主に「外観調査」と「内観調査」の2種類があります。「外観調査」は、店舗の外側からお客さんの出入りなどを確認する調査になります。
「内観調査」では、調査官が事前にお客さんとしてお店にやってきて買い物をしたり、サービスの提供を受けたりします。その際、レジの使用状況、領収書の発行状況、書類の保管場所などをチェックします。
特にその日の調査官分の売上や、レジを通しているか分かりにくい団体客の売上(一人いくら×何人など)については、調査当日に確認されるであろう重要な項目になります。
② いきなりの調査
事前調査の次はいよいよ調査当日です。多くの場合、自宅と店舗の両方に開店前(主に朝一番)の時間にやってきます。ここで焦らずに次のように対処しましょう。
・ まず調査官を中に入れず、外で待機してもらいます(強制捜査でなければ無許可で中に入ってくることはありません)。
・ 調査官の名前と部門を聞いてメモします。
・ なぜ事前の通知なしに調査を行うのか理由を聞いてメモします。
・ 顧問税理士に連絡し、状況を伝え現場に来てもらいます。
③ その場で現金等の確認
税理士が到着しますと、いよいよ調査が始まります。皆さん、日頃の準備は大丈夫でしょうか?
調査官は、まず売上の記録(レジのロールや売上伝票、領収書の控え)がどうなっているかを調査します。
次に現金(レジ、小口現金、金庫など)の保管場所や日々の動かし方を確認し、その時点で残っている現金が通常の流れ通りの金額になっているかを調査します。
売上の記録と現金の残高が一致していたら、いよいよ「売上の記録」が合っているかの確認です。調査官が事前調査をしに来た日の売上が正しく計上されているかを細かく調査します。
ここまでをクリアすれば大きな山は越えたと判断して大丈夫です。もし開店時間が近づいていたら、朝からの緊張で疲れもあるかと思いますので、顧問税理士と相談して続きは別の日にお願いすることも可能です。
3. 在庫や商品の取り扱い
税務署が突然やってきた!という最初の山を乗り越えた皆さんの次の山は在庫です。毎年の棚卸しや在庫の管理はしっかり行っていますか?ここでは調査の現場でよくある否認事例をいくつか紹介しておきます。
① 在庫の管理がずさん
在庫の管理をしておらず、毎年適当に計上していたところ、税務調査により否認を受けた事例。
→ 税務署は平均的な利益率、売上高、仕入高からあるべき在庫を逆算して推計することがあります。
これと申告金額に大きな差異がある場合、理由を説明する必要があります。
② いつもと違う場所に置いた在庫
期末にまとめて購入したが置場がなかったため別の場所に保管されており、お店の在庫として認識されていなかった事例。
→特に自宅に保管している場合、私物との線引きが難しいため注意が必要です。
③ 在庫廃棄処分
不良在庫を処分した証拠がなく損失を否認された事例。
→日常発生するものを超えた量の在庫処分をする際には、可能であれば処分証明書、
ない場合は廃棄時の写真などの証拠を残しておきましょう。
④ まかない・社員販売の未計上
お店の商品・サービスを、経営者や従業員が無料で受け取っていた事例。
→飲食店であれば、例えばまかない代を負担してもらう必要があります。
→小売業の場合、仕入値以上かつ売値の70%以上で販売する必要があります。
※得をしたと認定された金額は、受け取った各自が給与として課税されることになります。
4. おわりに
いかがでしょうか?現金商売の税務調査は「突然やってくる」ということを除けば基本的な内容が多く、事前に備えておけば対応できるものばかりです。
ただ万が一「売上の未計上」が指摘された場合には「意図的な隠蔽」とみなされ、重加算税( 35 %)が課されるだけでなく青色申告が取り消しになってしまう可能性もあります。今のうちに税理士と相談をして、足りない部分は対策を立てておきましょう。