妊娠出産にかかる医療費控除と確定申告について
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医療費控除とは ~妊娠、出産時の医療費控除はお忘れなく~
医療費控除とは、医療費が多くかかった年の翌年に確定申告をおこない、その結果として所得税や住民税の負担を軽くしてもらう制度です。
確定申告を行うと所得税はその年の分の税額が下がり、還付金が発生する場合もあります。また住民税は翌年6月からの税額を減らせる可能性があります。
医療費控除(確定申告)と聞くと、手続きが難しい、手間がかかると思いがちです。しかし、妊娠、出産で医療費が増える年こそ節税につながる機会ととらえ、確定申告にトライしてみてください。
妊娠出産にかかる費用はどれくらい?
ところで医療費と言えば、通常医療機関にかかった場合に支払った医療費のみと考えがちですが、それ以外にも妊娠中は妊婦健診や検査の費用、通院費用のほか、出産で入院する際に公共交通機関を使うことが難しい場合に利用したタクシー代なども対象になります。妊娠出産では具体的にどのような費用がかかってくるか確認してみましょう。
まず妊娠と判断されると、おなかの赤ちゃんと妊婦の健康状態を確認するため、医療機関にて定期的に妊婦健診を受けます。この定期健診は保険適用外のため健診料は全額自己負担です。健診1回につき費用はおよそ5,000~1万円。健診の回数は、出産までの間に平均で14回ほどになるため、合計すると10万円前後の費用がかかることが多いようです。
次に分娩の為の入院費用です。病院、診療所、助産所など、施設によって入院費用は変わりますが、公益社団法人国民健康保険中央会の調べ(平成28年度)では、正常分娩の出産費用の平均額は病院での出産で51万1652円、診療所で50万1,408円、助産所が46万4,943円でした。
別途分娩費用もかかります。分娩費用は病院によって差がありますが安いところでも30万円からで高いところでは100万円を超えるような病院もあり、全国平均では約42万円程度かかります。個室対応や入院グッズが完備されている産院、エステのサービスやホテル並みの食事が出るような病院ではサービス料が加算され、費用が上がる傾向があります。
また夜間や土日祝日などの時間外分娩では数万円がプラスされる医療機関が多いです。その他、出産時に陣痛促進剤や吸引分娩、鉗子分娩、輸血などの処置がおこなわれた場合はその分の費用もかかることがあります。以上はすべて健康保険適用外で基本的には全額自己負担です。
医療費控除の対象となる費用・ならない費用
ところで妊娠中にかかる費用や出産費用の中で、医療費控除の対象になるものとならないものがあります。主なものを以下に挙げました。
控除の対象となる | 控除の対象とならない |
・妊婦健診費用 ・入院中の治療に必要な医薬品の購入費 ・トラブル受診や検査の費用 ・入院中の治療に必要な医薬品の購入費 ・治療のための鍼灸・マッサージ代 ・通院・入退院時の交通費 ・やむを得ずタクシーを利用した場合の料金 ・入院・分娩費 ・入院中に病院が用意した食事代 ・赤ちゃんの入院費・健診費用など ・治療目的の母乳外来 ・不妊症の治療費・人口受精費用など |
・妊娠検査薬、健康維持のためのサプリメントなど治療目的ではない医薬品などの購入費 ・マイカーで通院時のガソリン代や駐車料金 ・里帰り出産で帰省するための交通費 ・予防接種費(医師判断での実施は対象) ・自己都合による入院中の差額ベッド代 ・入院用の寝具や身のまわり品の費用 ・入院中に出前した食事代、外食費 ・赤ちゃんのおむつ代、ミルク代など |
以上はあくまでも一例ですが、治療を目的としないものや自己都合による出費は医療費控除の対象にはなりません。たとえば、薬局などで購入したものでも、風邪薬など治療を目的としたものは対象になりますが、サプリメントなど病気の予防や健康増進が目的のものは認められません。
また交通費は通院・入院時の電車やバスなどによる交通費や、出産で入院する時にどうしても必要でタクシーを利用した場合は対象になります。しかし、マイカーによる通院のガソリン代や里帰り出産で帰省するための交通費は対象にはなりません。通院交通費については日時や運賃、行き先などのメモが必要となりますので、ご注意ください。
※医療費控除の対象とならない費用でも、税務署の個別の判断などで認められるものもあります。
医療費控除のための確定申告の準備
「医療費控除」というのは、1年間の医療費が一定の金額以上になると、確定申告をすれば所得税を軽減できる制度です。先に記した妊娠出産のための費用も医療費として医療費控除を受けることができます。
控除を受けられる条件は、その年の1月1日〜12月31日までに支払った医療費が10万円を超えた場合です。年間総所得が200万円未満の人は、医療費が総所得の5%以上で控除の対象になります。医療費控除は出産費用だけでなく、生計を一にする家族全員の医療費の合計が10万円を超えれば申告が可能です。そのため世帯全員の1年間の医療費をまとめて計算することになるのですが、生計を一にしている場合は、所得の高い人のほうがまとめて医療費控除を計算して良いことになっています。例えば世帯内で共働きの場合は、収入が多く、所得税率が高い人が控除の申告を行えば、有利になる場合があります。
また、生計を一にしている家族の中に、年金生活で、所得税を支払う親がいる場合には、親が申告したほうが良いケースもあります。年金生活では所得が200万円未満になる人がほとんどなので、所得の5%が適用でき、差し引く金額を減らせる可能性があります。
医療費控除の申告期限と、
控除額・還付金の計算
医療費控除の申請期限は、対象とする期間の翌年の1月1日から5年間です。例えば令和4年度(1月1日〜12月31日まで)の医療費を申告する場合、令和5年1月1日から申告でき、令和9年の12月31日まで申告可能です。
医療費控除を確定申告した場合、いくらぐらい返ってくるのか確認してみましょう。
<算出方法>
(1)医療費控除額の計算
(2)還付金の計算
医療費控除額の計算式はこちら→
医療費控除額=1年間に支払った医療費の合計額-補てんする金額-10万円
(年間総所得が200万円未満の人は所得金額の5%)
「補てんする金額」というのは、出産育児一時金、高額療養費、生命保険などから支払われる保険金など、医療費を補てんする国や地方公共団体から受け取る補助金や生命保険の保険金などの金額のことです。
減額される税金は「医療費控除額×所得税率」で計算します。給料などで税金を天引きされている場合、この金額の範囲で支払った税金が還付されます。所得税率は所得に応じて変わりますが、詳細は国税庁のホームページで確認してください。
参考:国税庁「所得税の税率」
下記の例にて還付金のシミュレーションをしてみましょう。
<計算の例>
・医療費:出産費用60万円、歯科治療2万円
・補填する金額:出産育児一時金42万円・課税される所得金額:600万円
(1)医療費控除額:(60万円+2万円)-42万円-10万円=10万円
医療費控除額は10万円となります。国税庁のホームページによると課税される所得金額が600万円の場合所得税率は20%ですので、それをもとに還付金を計算します。
(2)還付金:10万円×20%=2万円
シミュレーションの結果、還付金は2万円です。
これはあくまでも目安の金額であり、課税される所得金額が多いほど所得税率も上がります。そのため同じ医療費控除額であっても、所得が多ければ還付金も増えていきます。
<注意>医療費控除額を計算するときは、出産育児一時金や高額療養費、生命保険などから受け取った給付金を医療費から差し引くようにします。書類に不備があると税務署から訂正を求められます。
確定申告の手続きに必要なものは?
手続きには以下のものが必要です。事前に必要書類の確認をお願いいたします。
□確定申告書
□医療費の明細を記入した用紙
□医療費を一覧表に書き出し、合計金額をメモしたもの
□領収書のない交通費についてのメモ書き
□源泉徴収票(申告者が会社員・公務員の場合)または支払調書(申告者が自営業・自由業の場合)
□保険金などの「補てんされる金額」がわかるもの(確定していない場合は見込み金額)
□医師の証明が必要な場合は診断証明書
□申告者本人名義の通帳(一部の金融機関を除く)
□マイナンバーなど
※医療費の領収書の提出義務はありませんが、領収書は5年間の保管義務あります。
確定申告の手続きの流れは?
■1月〜12月
1月1日から12月31日までの家族全員分の医療費・薬代等の領収書やレシートを集めます。
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■年末ごろ
1月1日から12月31日までの家族全員の医療費を合計します。合計金額が10万円を超えたら、申告ができます。申告者が会社員・公務員の人は職場で受け取る源泉徴収票を保管しておきます。
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■翌年1月ごろ〜
確定申告書を入手します。国税庁のホームページからダウンロード可能。
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確定申告書に必要事項を記入して計算します。
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確定申告書などを税務署に提出します。
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■申告から約1〜2カ月後
申告者名義の口座に、還付金があれば振り込まれます。
戻ってくるお金(還付金)が少なくても確定申告にはメリットが
医療費控除で戻ってくるお金(還付金)は、手続きに手間がかかる割には少ないと感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし申告しておけば、たとえ還付がなくても次年度の住民税額が下がる可能性があります。なぜなら住民税も、総収入から各種控除を引いた金額に課税されるためです。少し面倒な部分もありますが、医療費控除(確定申告)をしていただくことをお勧めいたします。