Plusone649
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ヤイリギターが名声を得る基礎を作ったのは2代目社長の矢入一男氏(故人)だ。1950~60年代の日本ではギターはほんの一部の人のたしなみで、同社で製造したギターはほとんど輸出向けだった。だが、本場のアコースティックギターづくりを学ぶため、1962年に渡米した一男氏はショックを受ける。日本のギターは雑貨屋で売られ、おもちゃ扱いされていたのだ。そこで、「世界に通用するギターをつくろう」と一念発起する。同社最古参の職人で、K・ヤイリカスタムショップマスタークラフトマンを務める小池健司氏は1963年の入社。「当時はギターを弾く人は不良のイメージがあった時代」と苦笑するが、一男氏の薫陶を受けながら、ギターづくりを極めていく。一男氏がまずこだわったのは素材だ。パーツごとに最適な木材を世界中から仕入れ、10年ほど乾燥してから材料に用いた。「他社の多くは合板を使っていましたが、うちは単板で樹齢100年以上の銘木を10年分集めていました」。1983年に入社した松尾浩氏はフォーク世代。弾き手としてギターに触れ、複数の国産メーカーの中でもヤイリギターの音にほれ込み、押しかけ同然で入社した。「社長(一男氏)はヤイリの認知を広めるため、アーティストとの関係構築をねらい、音楽の知識を持った人材を探していたようです」。まずは名古屋を拠点にプロのミュージシャンとの人脈を広げ、それぞれが求める要望に応えていった。「音楽が商業化され、ライブ、コンサートが増え、そこでどうすれば良い音が鳴るか、どのミュージシャンも悩んでいた時代。そこにギターとシステムを組み合わて提案していきました」とファクトリーマネージャーの森幸久氏は、ヤイリギターが支持されていった理由を語る。同社にとって大きな転機となったのはポール・マッカートニーとの出会いだ。数十万人規模を収容するホールでのワールドツアーを控えていたポールにとって、巨大な会場でいかにアコースティックギターの音を聴衆に届けるかが大きな課題だった。マイクを装着した際に生じるハウリングを避けるには、サウンドホールのないモデルを持つヤイリギターが適しているのではと紹介を受けたのだ。左利き用にアレンジし、細かいシステムを調整したうえでサウンドチェックに臨んだ。「オーディションを受けるかのように緊張しました」と松尾氏はその様子を振り返る。ワールドツアーの一環で1990年に来日したポールが、ヤイリギターのモデルを手にしていたことが国内のミュージB'z、井上陽水、サザンオールスターズ、シャンの間で瞬く間に知れ渡り、GLAY、BEGIN、福山雅治らがこぞってヤイリギターに声をかけた。ギターづくりにおいては、例えば、補強と音作りのために内部に複数貼り付ける構造材(ブレーシング)の配置や削り方次第で低音、高音のバランスが変わる。小池氏は「アーティストからのオーダーを聞き、構造材の角度や削りや配置をミリ単位で調整します」と手の指先ほどの大きさの鉋を持ちながら説明する。「どんな難題が持ち込まれても、小池がいるから大丈夫と安心していました」と松尾氏は語る。ヤイリギターでは、購入した顧客に永久品質保証制度を用意している。「ギターは使う本人より長生きするのだから、たとえ工場がつぶれたとしてもリペアは残す、と先代は言っていました」と松尾氏が言えば、森氏は「作り手としては最後まで面倒を見るのは当たり前。当社くらいの40人規模のサイズだからできること」と話す。東日本大震災では、多くのギターが津波で流され、海水に浸かった。持ち主不明のギターケースの中にヤイリギターの保証書が入っているのを見つけた人から連絡が入り、丁寧に復元した。「残念ながら持ち主の方は亡くなられていましたが、保証書のリストと照らし合わせ、ご家族に無事お返しすることができました」(松尾氏)。小池氏は79歳の今も現役の職人として活躍している。かつては店頭で弾いてみて、すぐに音が出るギターをつくっていたが、現在は使い込むことで音が育っていくギターづくりにシフトしているという。「弾き込んで、音が木になじんで、沁み込んでいく」ギターだ。一方で、若い世代の職人に対しては、今の世代に合わせた音作りや装飾のアイデアを形にし、自身がカスタムメイドで製作したギターを店頭に並べる機会を用意して、創作意欲を掻き立てている。「私たちの世代は海外のギターに追いつけ、追い越せでやってきましたが、若い職人は全く新しいアプローチで独自性を出しています。どんなものがでてくるんだろうと楽器屋さんも待っている。頼もしいですね」(松尾氏)。ギターづくりは器を作ることではなく音を作ること。そんな思いがヤイリギターの現場には浸透している。津波で被災したギターを家族のもとへ世界に通用するギターをアーティストの悩みに寄り添うポール・マッカートニーの目に留まる新しい世代に受け継がれる職人魂ショールームには職人がカスタムメイドで製作したギターが並ぶシーズニングルームでは、ギターに音をあらかじめ聴かせ、なじませる29

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