インフレ社会では資産運用が必然になる投資型クラファンという新しい資金調達法宣伝費ゼロで、PRにも人材確保にも大きな効果万一に備えるBCPは企業競争力向上にも効果的BCP策定が取引の必要条件になることも9 一方の日本は、逆に名目GDPの方が小さい。まさにデフレの数式で、実際この間、毎年物価が下がってきたのです。これにより賃金はわずか2%しか伸びず、投資も一般には普及せず、家計金融資産も恩恵にあずかることはありませんでした。GDPが大きくなり始めており、これが実体経済を押し上げる方向に働いています。もし2024年の春闘で近年にない賃上げが勝ち取れたら、日本経済もインフレに動いていくと言えるでしょう。この30年間とは違う時代になる備えをしておく必要があります。インフレになると物価は常に上がり続けます。それに伴って賃金も上昇していけばいいのですが、まだスピードが遅いのが実情。つまり、お金をそのまま持ち続けていても、その価値は常に目減りしていくということです。まずは今年からスタートする新NISAが絶好のチャンス。1千円からでもいいので投資を始めて、資産を増やす努力をしていきましょう。経営者の方にとっては投資とともに大切しかし、2023年の日本は名目なことは資金調達です。インフレで金利が上がっていくと銀行からの借り入れコストが高くなり、資金調達が難しくなる傾向が予想されます。そこで注目したいのが「株式投資型クラウドファンディング」です。これは成長が見込まれるベンチャー企業に個人投資家が10万円程度から株式投資できる新形態のプラットフォームです。例えば、町工場から医療ベンチャーへ転身したKOTOBUKIMedical(株)という企業は、長年培っていた町工場の切削技術を活かして、コンニャクを原料とした手術トレーニング用模擬臓器(VTT)の製造に乗り出しました。その際、日本初の株式投資型クラウドファンディング会社である(株)FUNDINNOを利用して株主を募り、約9千万円の資金調達に成功したのです。このケースでは、投資型クラファンという新手法で目標資金を調達できたことや、従来のVTTが豚の内臓などを材料に使っていたため倫理的な批判を受けていたものが、コンニャクを材料にするという新しい取り組みであることが注目を集め、国内外のメディア取材が殺到。その結果、宣伝費ゼロで企業のブランド価値を向上させることができました。さらに、同社の新事業は、SDGsが掲げる目標の一つ「すべての人に健康と福祉を」に貢献することから、若い人たちの共感を集め、意欲ある人材の採用にもつながったのです。また、投資家の立場から見ると、投資型クラファンはベンチャー企業への支援という観点からも利用価値があります。エンジェル税制の対象企業に投資すれば税制上の優遇措置も受けられます。分散投資の選択肢の一つとして考えてみてはいかがでしょうか。今年、中小企業の皆様に始めていただきたいことの一つに、「BCP(事業継続計画)」の策定があります。BCPとは、万一の災害発生時に、事業の継続・復旧を図り、企業の中枢を守れることをシミュレーションした計画書のこと。それを経産省に提出して認定を受けると、認定ロゴマークの使用が認められ、税制優遇も受けられます。事業継続力強化計画の認定制度である「簡易版BCP」は、通常のBCPより作成が容易(A4・4P程度)であるため、中小企業でも気軽に申請できます。例えば、熊本県にある(株)ヒサノという精密機器輸送会社は、台湾TSMCの熊本進出に伴う運輸事業の受注獲得を目的にBCPを策定したところ、自社の倉庫が洪水の被害に遭う危険性があることがわかり、排水ポンプの設置や倉庫を高台に造るなどの対策を講じることができました。このように、自社の万一のリスクを認識しているかどうかを取引条件に据える大企業も増えており、中小企業が受注獲得競争で優位に立つには、BCPが差別化の武器になることもあります。中小企業におけるBCP策定率はまだ18%程度しかありません(中小企業庁2021年調査)。私は講演などで年間に全国約100か所を訪れて、経営者の方々にお話しさせていただいていますが、皆様がいちばんメモされるポイントがこのBCPです。そのメリットを考慮してぜひBCPを策定していただきたい。リスクを認識していない企業は選ばれない時代に来ているということもわかっていただければと思います。
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