開発費など)、福利厚生費をかけているところはその半分だ。この1割の企業に学んでほしい。この1割の企業は経営に関する考え方がぶれない。では、ぶれる企業が間違って重視していることをいくつか挙げてみる。まず「株主、顧客第一主義」であり、「業績第一主義」だ。一方、ぶれない企業は、社員とその家族をまず優先し、業績ではなく社員の働きがいを大切にしている。また、8割の企業は「価格競争重視型」だ。安く売るから賃金も上がらない。そのしわ寄せは社員に行く。ぶれない企業は「非価格競争経営」を実践している。この会社がつくった製品を買いたい、この会社のこの人から買いたいと思って買ってもらえる会社は強い。ぶれる企業は「閉鎖型経営」を行っているのに対し、ぶれない企業は「ガラス張り経営」を行っている。つまり決算書を社員に公開しているのだ。会社は社員を含めたみんなのものだ。労働分配率も明記し、利益が出れば社員に還元すべきだ。また、ぶれる企業は「フル操業前提型」だが、私はそのような企業に対して「腹7分目経営」を提唱している。仕事が3割増えても残業ゼロでいけるし、3割減っても赤字にならない。そのために、総人件費の3倍を内部留保として蓄えてほしい。3年間不況が続いても社員を守ることができる。ここまで挙げたことを一度に実践するのは難しいが、優先順位をつけて一つずつ実現していってほしい。ここで、いくつか企業の事例を紹介したい。病気のため2年間一度も会社で仕事をできなかった社員に対して、100%給料を払い続けた会社がある。本人から「他の社員に迷惑がかかるので払うのをやめてほしい」と連絡があったそうだが、支払い続けた。この会社は定年もなくいつまででも働き続けられる。社員にしてみれば「もし自分が同じような状況になっても会社が守ってくれる」と思えるから、安心して働くことができている。また、ある会社で働き盛りの40歳の男性が持病を悪化させて亡くなってしまった。病弱な奥さんと小学校低学年、保育園の子どもが残された。この会社は、2人の子どもが大学を卒業するまでの学費を負担し続けている。先日、高校2年生になった長男から「1年でも早く恩返しをしたいので高校を卒業したら雇ってください」と連絡があったそうだが、社長は、「大学で学んでさらに成長してからうちに来てほしい。席を用意して待っているから」と伝えたという。ある会社の社員から「いつかうちの会社を訪問して、社長をほめてやってください」とメールが来た。訪ねてみると、会社の休憩室で社員の肩もみをしている人が20人ほどいた。聞けば、マッサージをしている人は皆さん目が見えない人で、その全員を正社員として雇用していた。その会社の社員は勤務時間中いつでも目が見えない人たちからマッサージを受けられるようになっている。その人たちの会社までの往復タクシー代も負担していた。私が主宰する「人を大切にする経営学会」では、毎年「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」を選んでいる。応募資格は、過去5年にわたって、以下の6項目全てに該当していることだ。「希望退職者の募集や人員整理(リストラ)をしていない」「重大(死亡や重傷)な労働災害を発生させていない」「一方的なコストダウン等理不尽な取引を強要していない」「障がい者の雇用率は法定雇用率以上である」「営業黒字で納税責任を果たしている」「下請代金支払遅延等防止法等の法令違反がない」「人を幸せにする経営」は言葉にすることは簡単だが、実践するのはとても難しい。人を幸せにしていれば結果的に業績も上がるはず。そんな真にいい企業を1社でも増やしたいと思って取り組んでいる。元法政大学大学院教授坂本 光司 氏1947年静岡県生まれ。法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学中小企業研究所所長等を歴任。専門は中小企業経営論、地域経済論、障がい者雇用論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)など。「人を大切にする経営学会」会長、「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」審査委員長も務める。ティグレニュース13社社のの事事例例紹紹介介いいちちばばんん大大切切ににししたたいい会会TIGRE NEWS
元のページ ../index.html#13