強制貯蓄の反動と補正予算の効果で景気は回復軌道に価格に見合った価値が提供できているか再点検をで第5類に引き下げておくべきだったのにできませんでした。なぜなら、岸田政権が参議院議員選挙を前にマイナスの影響が出ることをおそれて先送りしたからです。その後もタイミングを逸し、ようやく今年の5月に第5類に引き下げられることが決まりました。それが事実上の安全宣言になるでしょう。新型コロナウイルスの感染拡大以降新しく生まれた言葉に「強制貯蓄」があります。日本銀行が作った言葉で、コロナショックさえなければ本来使われていたお金が貯め込まれていることを指しており、具体的には飲食や旅行などにかける費用が挙げられます。日銀は強制貯蓄額を約50兆円と試算しています。特に貯めているのは所得が高い中高年以上の層です。4月以降これらの人たちのリベンジ消費が起こるのではないでしょうか。景気回復のプラス要因はもう一つあります。今般成立した、真水で29兆2000億円の第2次補正予算です。これまで長年にわたって日本の景気が低迷し続けた理由は、企業や生産者が売る供給より、消費者や企業の買う需要が弱かったからです。売れないと不良在庫が発生してしまうため、値段を安くしてでも売ることになります。そうすると利益が下がってしまい、賃金も上がらず、また消費が落ち込むという負のスパイラルに陥っていたのです。日銀はこの需給ギャップが年間20兆円近くあると試算しています。この20兆円分のへこみを埋めるのが国や自治体という公的セクターの役割であって、今般の第2次補正予算で需給ギャップを埋めることが期待されます。その効果がじわじわと実際に出てくるのは2月以降で、さらに強制貯蓄のリベンジ消費効果が出てくる4月以降に景気は本格的に回復に向かうのではと考えられます。さらに本格的に景気が回復していくためには賃上げが求められます。今年1月に、ユニクロを展開するファーストリテイリング社が平均で15%、マネージャークラスで最大4割賃上げするというニュースが飛び込んできました。なぜファーストリテイリング社は賃上げに踏み切ったのか。それは店舗を世界中に展開するグローバル企業だからです。世界各国でマネージャークラスの賃金を比較すると、日本はアメリカやEU諸国はおろか、韓国やタイより低い水準です。日本国内だけで仕事をしていればそのままで済みますが、世界で戦っている企業は賃金体系を世界水準に合わせないと人材流出が起きてしまいます。今回のニュースにはそのような背景があるのです。グローバル企業の中でも、ユニクロのように世界標準の賃金を払える会社とそれができない会社で2極化が進んでいくでしょう。なぜユニクロはそれができたのか。ユニクロは1年ほど前に主力商品の値上げを行いました。値上げをしてどうなったかというと、販売数量が落ち込むこともなく、その結果史上最高益をたたき出しました。消費者は改めて、この価格で、この品質、デザインなら買いたいと判断したわけです。つまり、日本の消費者は必ずしも安いものだけを求めているわけではなく、価格に見合った価値があれば買ってくれるということなのです。これまで日本の企業や生産者は、消費者は安さを最優先していると勘違いし、安売り競争に陥ってしまいました。そして、安く作ることにばかり注意を向けすぎて品質まで落としてしまったのです。ユニクロはそこに気づいてあえて値上げに踏み切ったのでしょう。この春から景気は回復軌道に乗ると思いますが、日本の企業の業績がみなもれることなく上がっていくとは考えていません。やはり二極化していくでしょう。価格に見合った価値のある商品、サービスを生み出しているところが勝ち残っていくということです。皆さんもぜひ自分たちの提供している商品やサービスが価格に見合った価値を提供しているかどうか、改めて点検してみてください。胸を張ってそう言えるのなら、この春以降事業は軌道に乗っていくことでしょう。91961年、東京生まれ。日本大学経済学部卒。経済紙の記者を経てフリー・ジャーナリストとなる。「夕刊フジ」「週刊ポスト」「週刊新潮」などで執筆活動を続けるかたわら、テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」、読売テレビ「そこまで言って委員会NP」他、テレビ、ラジオの報道番組等で活躍中。須田 慎一郎 (すだ しんいちろう)経済ジャーナリスト
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