Plusone633
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明日につながらない赤字国債の発行補助金や助成金がもたらす弊害楽観主義で逆境を乗り切るeveryone is safeless 日本は歳出を歳入で賄うことができないために大量の国債を発行しています。その国債を買っているのが日銀です。私はこのやり方も含めアベノミクスは間違いだったと思っています。令和5年度の予算案をわかりやすい数字で例えるなら、690万円しか年収がない家庭の支出が1140万円で、足りないうちの360万円を借金しようとしているのです。これまでたまった借金総額は1億円です。実際の国家予算では、財政法に「基本的に借金をしてはいけないが、仮にするのであれば『建設国債』として、橋や道路、港などの公共事業に限定される」と書かれています。ところが現在、建設国債の発行残高はごくわずかで、ほとんどは財政法で認められていない赤字国債です。令和5年度予算の36兆円の借金のうち29兆円が赤字国債です。日本は今日を生きているだけで明日はない。そういうことをやっているのです。アベノミクスのもと、これだけ積極的な財政金融政策を発動しながら、目標の名目経済成長率3%は達成できませんでした。私は、国の補助で日本経済が伸びていくことはないと考えています。経済学者のケインズは「アニマルスピリッツ」こそが経済の原動力だと言いました。補助金を申請してしのいだ方が楽だと考えるようになるとアニマルスピリッツは失われてしまいます。失業の話をします。昨年11月の日本の失業率は2・5%で、諸外国と比べても低い数字です。これは雇用調整助成金などの補助金の恩恵を受けているからです。一方で、企業の開業率と廃業率を見ると、いずれも主要先進国で一番低い数字です。人間の体で言うと古い細胞がずっと残っていて、新しい細胞が生まれる余地がない。これが日本経済の実態です。各国の時間当たり労働生産性を比べると、主要先進国で一番低いのが日本です。生産性が低く、古い体質の企業を補助金や融資で支援していると、労働力が生産性の高い企業に移ることができません。今日を助けるために明日の芽を摘んでしまっているのが今の日本の産業経済政策なのです。どの会社が勝って、どの会社が負けたか。この判断をするのは役所や政治家ではなく、消費者です。その会社のモノやサービスを買うということはその会社に自分の日銀券を投票するということなのです。消費者は安いものはどれか、いいものは何か、社会貢献している企業はどこかを知っています。残念ながらそこで出た失業者については私たちの税金で救えばよいのです。そして税金の使い道については、各政党の政策を見極め、今度は有権者として投票すればよいのです。もう一つ深刻な問題は人手不足です。国立社会保障人口問題研究所の推計によると、2015年に1億2700万人あった日本の人口は50年後の2065年には8800万人ぐらいに減ります。そうなると女性の皆さんにもさらに活躍していただかなければなりません。思い切って10年間だけ国会、都道府県議会、市町村議会議員全てを男女半々にしてみることを提案します。もう一つは外国人です。私は、積極的に外国人の皆さんを受け入れて一緒にやっていきましょうと考える派です。当初はトラブルもあるかもしれないけれど、それよりも人手不足の恐怖の方がよほど上回ります。2023年ぜひ議論してほしい問題です。新型コロナウイルスの教訓として、私は二つの言葉を取り上げたいと思います。一つは“No one is safeでなければ、だれも安全ではない)です。沈みゆくタイタニック号に乗り込んでいる私たちは、自分のことだけ考えるのではなく、困っている人に何ができるか、社会に何ができるかを考えるべきです。もう一つは「変わらないことこそがリスクである」です。目まぐるしく変わる時代には本当に変わる勇気を持たなければいけません。逆境の時代には悲観的に物事を考えがちですが、そこに立ち向かう時は「明日は絶対良くなる」という楽観主義でいることが大切です。明治維新、戦後に次ぐ第三の躍進を今こそ遂げるべきです。, un71955年、岐阜県生まれ。一橋大学経済学部卒業後、大蔵省(現財務省)入省。95年、三重県に総務部長として出向し、県行政の改革に携わる。財務省理財局国債課長などを経て、2002年12月に退官。03年4月、三重県知事選挙に出馬するも落選。同年10月より関西学院大学教授に就任。06年10月から18年9月まで、日本テレビ系のニュース番組『NEWS ZERO』のメインキャスターを務めた。”(すべての人が安全村尾 信尚 (むらお のぶたか)関西学院大学教授

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