居心地の良い空間を作るための努力は惜しまないコロナ禍を経て気づかされたこといつかは独立をという夢をかなえ、「BAR-ZIN」をオープンしたのは2001年、30順調に経営を続けていた頃、飲食界を大きな波が襲った。2008年に流行した鳥インフルエンザだ。客足がパタリと止まった。当時は結婚して娘も生まれていた。生活を守るためには転職もやむを得ないと求職活動を始めたところ、妻にたしなめられた。「ぶれてるやん」。BARの世界を究めたいと独立してまで店を開いた初心に返り、腹が据わった。ぼちぼち増えてきたお客さんの1人から「顔が晴れたな」と言われた。迷わずこの道を進もうと吹っ切れた気持ちをお客さんも見抜いてくれていた。BAR-ZINにはメニューがない。「何にしますかと聞かれ、たくさんのリストの中から選ぶのは焦るでしょう」。好みや興味を引き出しながら時間をかけて決めていく。居心地の良い空間を作るために、お客さんが話してくる音楽、お酒などの話題については「それ、どうなん?」と口癖のように聞き返す。お客さんは心地よくしゃべり続けることができる。さまざまな話題に合わせられるようドラマ、バラエティ、映画、音楽などのテレビ番組を録画して歳の時のことだ。「コロナ禍で、お客さんは外で飲む観ることも欠かさない。ホテル時代に二周りも三周りも上の世代に対して欠かさなかった配慮を今は一周り、二周り下の若い世代に対しても欠かさない。そして若い世代には、大人の社交場での振る舞いやBARの文化をしっかりと伝えていきたいとも考えている。言葉遣いや礼儀、マナーなどを時には厳しく伝えることもある。でもそのあとは冗談を交えてその場を和ませる。「笑いを取るのは関西に来て覚えたこと。人間関係を円滑にする武器」だと顔をほころばせる。コロナ禍では大きなダメージを被った。だが、休むことなく体を酷使してきたそれまでの激務を振り返り妻と娘のために休むことを選択した。そして、朝5時まで店を開けていたのを、コロナ禍をきっかけに1時までとした。「健康的になりましたし、家族と過ごす時間も増えました」。そして店を終えた後、別の店でどのようなカクテルを出しているのか勉強する時間も増えたという。気が付けば20年以上店が続いていた。「お客さんへの感謝しかないですね」。だが安住するつもりはない。価値を今まで以上に求めていると思うんです。だからこそここでしか飲めないカクテルをもっと増やしていきたいですし、大人のかっこいい飲み方、遊び方ができるようなお店にしていきたい。そのためにはもっと勉強していかないと」。初心を忘れず常に精進を続ける川野さんは今日も優しい笑顔でお客さんを迎え、シェーカーを振り続けている。BAR-ZIN お客さんと交わした会話をもとにオリジナルのカクテルを作ることもある29内装のデザインは赤と黒を基調にしている事業内容/飲食店〒650-0004 兵庫県神戸市中央区中山手通1-2-7リッチビルB1FTEL:078-334-0038
元のページ ../index.html#29